社会復帰概論

むずかしいです

週記4 色恋(恋の色)

午前3時。僕は少し冷えすぎた厨房で電子レンジの前にぷらぷら立ち尽くしている。レンジの中では、加熱されすぎたタピオカミルクティの容器が喉元に風穴を開けて血を吹き出させていた。レンジの中を黒々と汚す鮮血。何者かに膝を裏から突かれたみたいに、かくんと心ごと挫けそうになる。これでは仕事にならないから、何とか回れ右をして、蛇口を勢いよく捻って顔を濯ぐ。若干中身の減ったタピオカミルクティの素に牛乳を混ぜる。黒が淡くなり、やがて見慣れたベージュ色になったところで、心の中で悪態を吐く。こんなもん注文する奴が悪いねや……。そのあと仕事が落ち着いたときにふと、あぁ、こういうときにひとり、支えてくれる人がいてくれたら、という言葉がうっかり喉を突いた。春すらももう終わろうとしているのに情けないもんだな、ほんと。

ときに恋、恋愛というのは荒れた飲み会みたいなもんだ。渦中にいると持て余すけど、側からならずっと見てられる。僕の周りにもいろんな人がいろんな人に現を抜かしていて、そういう人を見ていると、日本語ひとつじゃ表せないほど混濁した彼らの感情が、ややもすれば僕の方まで雪崩れ込んで来そうな勢いである。身内で明け透けに遊ぶ人、叶わぬ恋を一途にする人、その人を振り向かせようとばたばたする人、恋を終わらせた人、終わらせられた人。彼ら彼女らは、銘々区々の色や大きさをもったエネルギー(僕は勝手に恋愛エネルギーと呼んでいる)を無意識にぱたぱた振り撒きながら、くるくる進んだり戻ったりしている。恋愛エネルギーは一度放出するようになると、どうすれば止まるのか誰にもわからない。止めない方がいいときだってある。止めようとしたらかえってエネルギーを貰ってしまった、とかいうこともしばしばだ。最近の僕は、すっかりこの瘴気にあてられてしまって、なんだか、うつらうつらと宙を舞っている。気がつくと僕が通った場所にもうっすらと色がつくようになってしまった。果たしてその色は何色なんだろうか。どんな風に色づくんだろうか。
「いややなあ、ほんま。」
わざとそう言ってから、新しく趣味にした、僕の色が満面に塗られたDVDの電源を入れた。